紫陽花 梅雨(つゆ)のきて庭の紫陽花(あじさい)瑞々しその当たり前に蘇(よみがえ)るもの 戦災の劫火(こうか)の中を生き伸びぬ賜(た)びし余生は早や半世紀 道ひとつ隔てて災禍を免れし農家の庭に紫陽花の花 罹災四日後燻(くすぶり)り続くる街を抜け紫陽花に遇(あ)ひて目を覚まされき 生くる希望かきたてられき 瑞々(みずみず)と咲く紫陽花の生命(いのち)に触れて 生かさるる身のありがたしこの年もかの日のままに紫陽花の咲く 戦(いくさ)知らぬ世代へ遺すメッセージ生ある裡(うち)にと重き筆とる 気力残る裡にと辛き筆をとる書きゆく程に血潮の騒ぐ 半世紀経(た)ちても癒(い)えぬ傷のあと触るれば痛み鋭く走る